ワタモテ公式小説アンソロジーを読んだ感想 他の先生方編

前置き

突然ですが私は「ワタモテファン」という言葉を使用する時、単行本を買ってるであろう数万人の人間をできる限りイメージするようにしています。

WEBやアプリで更新を常に追ってる人もいれば、単行本が出た時に買って読むいわゆる単行本派の方もいるでしょう。5chに二次裏、ツイッター、ピクシブに 4chan、Reddit、Discord といろんなネットメディアで感想を語ったり二次創作をしている人もいれば、シンプルに漫画を読んで楽しむだけの人もいるでしょう。

それらの人々の共通点はワタモテという漫画が好きという事だけであって、作品の読み方や楽しみ方はそれぞれみんな違います。こういう読み方が正しいとか、長年ファンサイトの運営をしているから特別という事もありません。ワタモテの単行本が出れば買って読み、いくらかの印税が谷川先生に還元されているという事のみが、ワタモテファンか、そうでないかの違いだと私は思っています。

そんな数万人の中の一人、アノニマスが公式小説アンソロジーの谷川ニコ先生以外の作品を読んだ感想がこちらです。

辻真先 / 私がウレないのはどう考えても読者が悪い!

御年87歳の大ベテランが書いたワタモテ、これだけでもファンなら興味をひかれざるを得ない所ですが、なんでもこの方は古くはジャングル大帝から最近では名探偵コナンのアニメの脚本も担当された日本アニメ界のレジェンドにして、ミステリ作家としても多くの作品を発表されている方らしい。

という事で谷川先生を除けばこの方の作品を今回のアンソロで一番楽しみにしていた私ですが、読み終わったときの率直な感想は

「なんじゃこりゃ」

でした。

一応夢の中の出来事という事になっているけど、冒頭からやたらとテンションの高いゆうちゃん、素っ裸でナニをブラブラさせながら登場する智貴と、ファンが困惑せざるを得ない展開が続き、その後も番号の読み上げやオノマトペの羅列で原稿用紙の行数を稼ぐなどやりたい放題し、テンションの高さだけ最後まで保って読者は置いてけぼりのまま終わります。

アバンギャルド(前衛的)というかなんというか、それも言葉通りの意味ではなく昭和的なアバンギャルド。作風の尖り方だけでいえば原作漫画を余裕で超えてくる尖り方。すげえな87歳。

リアルに想像してみてください。87歳という普通の人なら下手したら寝たきりになってるかも知れない年齢で、仕事とはいえ女子高生が主役の漫画を読んでその二次創作をするなんて並大抵の事じゃない。それでいてこんな尖った作品を出してくるバイタリティーはさすがはレジェンドと言ったところでしょうか。

作品そのものは正直面白くはなかったけど、何年か後にふと今回のアンソロの事を思い出した時に一番印象に残っているのはこの作品なんだろうなと思うと、これはこれで悪くないというか、こういうのを書ける方だからこそ競争の激しい世界で今でも現役で活躍できているんだろうなと素直に感服しました。

青崎有吾 / 前髪は空を向いている

谷川先生の作品を除けば今回のアンソロで私が一番好きな作品です。

なんと言っても主役を岡田さんにするという着眼点がまず良い。1年の頃はもこっちとまったく対照的な存在だったリア充グループの一人、今ではネモを介してもこっちと絡むことも増えたけど、もこっちと打ち解けているとまでは言えない絶妙な立ち位置のキャラ。

そんな岡田さんから見た今のもこっちと仲間たちを描くという点でも面白いし、リア充の岡田さんも人間関係や将来のことで思い悩むこともあるんだという当たり前の事が、ほぼ原作とのギャップを感じさせることなく書けているのがすごい。

あんまり良くできているので、岡田さんが清田くんを「よし」と呼び、鈴木くんを「鈴木」と呼ぶ二次創作ではごく普通の事に違和感を感じてしまうほどでした。原作者である谷川先生ならここで鈴木くんの名前を出すか、もしくは鈴木くんの下りを書かないかのどちらかでしょう。念のために言うとこれは原作との比較に耐えうるという意味で最大限に褒めているんです。

難を挙げるとすると、おそらくファンサービスなのか登場させる必要のないキャラを出したり、原作のエピソードを無理に引用するのはテンポを悪くするだけなのでなかった方が良いとは思いました。朱里ちゃんと紗弥加ちゃんの名前呼びみたいに出番に意味のあるキャラは良いんですけどね。

逆に一番良いと思った所は第二幕、ネモとスタリで勉強しながら自分たちの関係性について考える岡田さんのシーン。これが原作の岡田さんなのかどうかは分からないけど、ネズミーでの喧嘩後の岡田さんの一つの形としてはとても良いと思います。

こういう刺激を受けちゃうとまた別の面白い解釈はないかなと考えてしまうのが私の悪いところで、ネズミーでの喧嘩を経て、これまでお互い感じていた疑問や不満を心ゆくまで話し合い、一般的な意味での親友となったネモと岡田さんというのもちょっと見てみたいなとも思いました。

あとは最後のオチ。岡田さんも色々悩むことはあるけれど、ネモはネモなりの理由で岡田さんの事が好きなんだと、そして岡田さんもなんとなくその事はわかっているんだというオチはとても綺麗で良かったです。

相沢沙呼 / 夏帆

先の作品での岡田さん主役という設定を見たとき私は「鉄板」だなと思いましたが、こちらの作品の夏帆ちゃんが主役というのはまったくの予想外で面白いと思いました。

夏帆ちゃんを自分に自信のないキャラとして設定し、それゆえに周囲を良く観察している事に説得力も持たす、言ってしまえばかつてのもこっちと同じですが、上手いこと考えたなと思いましたね。

まあこれまでの数少ない描写からこの夏帆ちゃんに違和感を感じる人は多いみたいですが、地味系女子が派手系女子にあこがれを持つというのは百合作品ではたぶん王道の一つだと思うので、ワタモテを百合として読んではないけど機会があれば他の百合作品を読む事もあるという私としては、アンソロならこういうのもありなんじゃないかと思います。

それより大事なのは夏帆ちゃんの視点から描かれる加藤さんの描写です。以前このブログで「ワタモテ語り」と称して一回目に清田くん二回目に雌猫組について記事を書いた事がありますが、三回目に書く予定だった私の中での加藤さんとこの作品に登場する加藤さんのイメージはほぼ一致します。

まあ記事を書こうと思っていた矢先に青学のオープンキャンパス回が来て、自分の中での加藤さんのイメージに大幅な修正を加えなければならなくなり結局記事は書かなかったんですが、こういう形で当時を思い出すことになるとは思いませんでした。

大きな違いがあるとすれば、この作品内では外見などから自然体に振舞っても受け入られてしまうが故のある種の天然キャラとして描かれていますが、私の中の加藤さんなら夏帆ちゃんの気持ちに気づかないはずがないし、夏帆ちゃんをこんな気持ちのままにはさせて置かないという点ですかね。

あとは同じ地味系女子という視点から見たもこっちというのが非常に新鮮で良かったですね。考えてみればそうだよね、もこっち以外にもぼっちで悩んでいる女子はいるよねという今さらな驚き。原作で描かれているのはこみちゃんとか二木さんとかぼっちをものともしない強キャラばかりなので、こういうのこそアンソロでしか描かれない、アンソロならではの良い部分だろうなと思いました。

円居挽 / モテないしラブホに行く

「ワタモテ大好きツイッターお兄さん」という愉快なキャッチフレーズのプロの作家の人。

今はROM専とはいえ匿名掲示板を主戦場とする私としては、それなら「ワタモテ大好きやきうのお兄ちゃん」とか「ワタモテ大好き二次裏のとしあきさん」を名乗る作家さんがいてもいいのになと思います。

やきうのお兄ちゃんなら、こみちゃんを主役にしてロッテを語らせればある意味では間違いなく原作を超える作品ができあがって伊藤さんも大満足でどん引きすることでしょう。としあきさんの場合は… 怪文書?

それはさておき、今回のアンソロで一番「ファンの目線に近い」作品だと思います。冒頭で言ったような数万人の中の一人としての目線、自分の書きたいワタモテはこうだという目線、私の目線とは違うけどとにかくそういうファンの目線の作品です。

同時に私が今回のアンソロで感想をどう書こうか最後まで悩んだ作品でもあります。

で悩んだ結果、直近の喪168の更新を読んで原作のあまりのパワーに二次創作の感想で何日も悩んでる自分がバカらしくなって考えるのをやめました。

こんな事を書くとこの作品を駄作だと言ってると思われるかも知れませんが、そうではありません。この作品をきちんと評価できるのは自分ではないなと思っただけです。あるいは一時保留として、他の方の感想を読んだうえで判断するのが良いと思ったという事です。

もともと私はワタモテという作品自体が他の人と感想を共有してこそ面白くなる漫画だと思っています。自分と同じ意見を見つければ嬉しくなり、違う意見を見つけてもその意外な着眼点を面白く思ったりします。

なので私の感想が物足りないと思った方は、ぜひご自分のブログで書いてそれを共有していただけると嬉しいです。

結び

という事でワタモテの公式小説アンソロジー、谷川ニコ先生以外の作家さんの書かれた作品に対する感想を終わります。

最後のは作者の方にもこの作品を良いと思った他のファンの方にも申し訳ない気持ちがありますが、これが私の限界という事でどうか許してください。

前回の感想で1500円は高いと思ったと書きました。同時に感想記事を書いて1500円分以上に楽しめたとも書きました。こんな感想でも語り合えるのは本を買って読んだファンだけです。なので1500円を高いと感じるかどうかは他のファンと楽しく感想を語り合えるかどうかによっても異なるのかも知れません。

4chanのスレの翻訳をやめてから良い感じにアクセスが減って、最近またワタモテを語る記事を書くのが楽しくなってきました。また何かの折に気が向いたら記事を書くので読んでもらえると嬉しいです。

では最後まで読んでいただきどうもありがとうございました。

谷川ニコ先生の作品を読んだ感想記事はこちらです

2 thoughts on “ワタモテ公式小説アンソロジーを読んだ感想 他の先生方編

  1. 更新お疲れ様です

    辻真先先生に関しては多くの人が同じ様な感想ですね
    正直内容はあんまり・・だけど87歳のお爺ちゃんがわたモテ読んでアンソロを書いているってだけで面白いからいいか!みたいな

    円居挽先生のお話は自分はかなり楽しめたんで目線があったんでしょうなーって感じです

    正直ハードカバーでもないのに1500円は高いけど1500円分は余裕でたのしみました

  2. どこに謝るのかとちょっとドキドキしてRTを保留してから読みました。

    私も辻先生の作品の感想は、全作品を読んでから、少し時間が経ってこのアンソロの存在を振り返った時に変わってくると感じました。辻先生自身も編集の方に他の4人がどんなものを書こうとしているのか確認した上で、自身の作品にどんな要素を担わせればアンソロ全体のバランスがよいものとなるか考えて下さったのではないかと。

    円居先生はファンのクオリティを知り過ぎていて、それでもそこにガチ勝負をかけるというプロの自負と誇りを感じました。逃げ方も分かっているけど逃げない。私は好きな作品だし、想像以上でした。

    お祭りだし、出版社に頼まれて義理で書いて下さる部分もあるのだろうと思っていたのですが、すごい4人でしたね。でもきっとこの4人が特別なんだろう…と、まだ反省していなかったりもします。

    あ、そうだ! また忘れてました。イラストのクオリティが凄かったです。表紙もあとがきも。どの作品も素晴らしかったという前提の上で、でもMVPは作画先生だったんじゃないかと結構本気で思っています