ワタモテSS劇場 第1話「ぬこっち、智貴に拾われる」

 こちらはかなり昔に私が以下の雛嬢さんのファンアートに影響を受けて、「野良猫のぬこっちが最初智貴に拾われたけど逃げ出し、ゆうちゃん、こみちゃん、きーちゃんの家を転々とした後に再び黒木家に戻ってそこそこ幸せに暮らす」というSSを書こうとして第1話を書いた所で挫折してお蔵入りになっていたものです。

モテないし、飼い主探す by 雛嬢 on pixiv

 私は「ぬこっち」、美少女猫である。都会の路地裏でたくさんの兄弟達と共に生まれたが、育ってみればどうやら私だけ他の兄弟達とは気品が違う。愛らしい顔立ち、ツヤツヤの毛並み、そんな私にノラ猫生活はふさわしくない。私にはリッチなイケメンとの飼い猫生活(ニートとも言う)こそふさわしい。そこで思い立ったが吉日、私は兄弟達に別れを告げて私を拾ってくれる優しくてリッチなイケメンを求めて住宅街までやってきた。

……

おかしいな… 美少女猫だが二週間近く誰も拾ってくれないぞ? イケメンどころか小学生にすら拾ってもらえない。普通はあれだろ? 通学途中の小学生が後先考えずに捨て猫を拾って自分の部屋にかくまったりして、でもすぐに親に見つかって家族会議の末に「きちんと世話をするから」という曖昧な約束の元になしくずし的に飼い猫になるのがデフォだろ? どうなってんだ最近のガキは。

このままではやばい。飲み水は近くの公園で手に入るが、非常食として持ってきたポッキーの備蓄が切れてきた。餓死する前に誰かに拾ってもらわないと本当にやばい。足りないのはアピールか? もしかしたら捨て猫にしては私は少し美しすぎるのかも知れない。美しすぎて誰も捨て猫とは信じず、ドッキリかと思ってスルーしている、おそらくそんな所だろう。ならば哀れみを誘う鳴き声でのアピールが効果的だ。何を隠そう私は将来的にTV出演も視野に入れて演技の練習もしている。

ぬこっち「に… にぃやああぁぁぁ。にぁ… にやああぁぁぁぁん。」

ふふふ。私の美声におどろいて周囲の人がこちらを見ている。いいぞ私、この調子で続けるんだ。

……

ぬこっち「に… にやあ… ぜぇぜぇ…げほっ…」

おかしいな… かれこれ二時間くらい続けているが誰も足を止めてくれない。それどころか私を見た途端にみんな足早に通りすぎて行く。何故だ…? もしかして、私はかわいくないのか? かわいいと思っているのは自分だけで、本当はとてもブサイクなのか? そうだとしたらこのまま誰にも拾われず私はここで死ぬのか? 私の両目から涙がにじみ出る。お腹すいたし、もうなんだっていいや。疲れたし、なんだかとっても眠いんだ…

その時、私の前に人影が立った。目付きの悪い、中学生くらいの男子が何も言わず私の方をじっと見下ろしている。なんだコイツ? 何見てんだよ、あっち行けよ。

智貴「俺ん家、来るか?」

え…? 拾うの? マジで!? どう見ても猫なんか拾いそうには見えない男子中学生は、私をダンボール箱から拾い上げると両手で優しく胸元に抱えて歩き出す。私としてはもっと大人なイケメンの方が好みだったが、今は選り好みをしている場合じゃない。こいつの家の住み心地を確認して、私にふさわしくない様だったら逃げ出せばいいだけだ。

しばらく歩いてたどり着いた家はどこにでもある普通の一軒家だった。良し、ひとまずは合格点。ペット禁止のマンションとかだったら元も子もないからな。後は先客の犬や猫がいると面倒なのでいない方が良いのだが… 良し、犬猫どころか金魚すらいない様だ。これで飯がうまければこの家をしばらく私の城にしてやっても良い。私を拾った男子中学生は下僕として使ってやろう。

ぬこっち「にゃあにゃあ (おいお前、腹が減ったので早く飯を出してくれ)。」

私はそう下僕に命じるが、下僕は台所ではなく風呂場に私を連れて行きシャワーで私を洗い始めた。

ぬこっち「いにゃあぁぁぁぁ!! (いきなり虐待とか何考えてんだコイツ!?)」

智貴「じっとしてろ。」

私の小さな体を男子中学生のごっつい指が撫で回す。ちょ、お願いだからマジでやめて。脇腹とか弱いからw 死ぬ、本当に死ぬ。お母さんごめんなさい。あ、しっぽつかむのやめて。こんなのお風呂という名のレイプだよ。ああもう、耳に水が入ったじゃんかぁーーーー!

……

陵辱の限りを尽くされた私は男子中学生の部屋のベッドでぐったりしていた。私の下僕は「買い物に行ってくる」と言い残して部屋から出て行ってしまった。あたりを見回すと男子中学生にしては小奇麗に片付いていて居心地の良さそうな部屋だった。暇つぶし用にゲーム機も完備している。漫画の趣味が少し私とは合わなそうだが、それはおいおい解決して行こう。私のすすめる名作をつまらないと言う人間がいる訳がないからな。

下僕が買い物から帰って来た。手には猫缶とか猫用トイレとか、たくさんの猫用グッズを抱えている。猫缶の銘柄は… 良し、スーパーの特売品じゃないな。実は私は猫なのに回鍋肉とか味付けが濃い食事が好みなのだが、今はとにかく私の食事について金をケチらないという事が重要だ。

ぬこっち「にゃあにゃあ (早く開けろよ)。」

智貴「たくさん食えよ。」

下僕が猫缶を皿に開けると私は一心不乱になってそれを食べる。なにせ二週間ぶりのまともな食事だ。腹いっぱいを通り越して腹が苦しくなってきても私は皿を舐めつくすほどに食べた。ふと上を見上げると下僕がそんな私を微笑みながら見ている。何見てんだよ気持ち悪いな。だいたい食事中にじろじろ見るのはマナー違反だろ。

智貴「食後の運動でもするか?」

下僕が不敵な笑みを浮かべる。おいまさか、やめろ。食後すぐの運動は体に悪いんだぞ? 私は必死になって抗議をするが、下僕は目つきの悪い目元に笑みを浮かべたまま例のアレを背後から取り出した。そう、猫じゃらしである。

智貴「そらそら。」

ぬこっち「にゃっ! (舐めるなよ小僧!)」

智貴「こっちはどうだ!」

ぬこっち「にゃにゃっ! (そんなフェイントに!)

智貴「と見せかけてこっちだ!」

ぬこっち「にゃあ!! (ひっかかる私ではない!!)」

さすが私、一瞬にしてつかまえてやった。お前も男子中学生にしてはなかなかやるみたいだが、相手が悪かったな。「裸足で駆けてくサザエさんでさえ裸足で逃げだす愉快な猫」という異名を持つ私の敵ではない。いざとなればゴキブリ程度なら一瞬でやっつけてやるから安心するがいい。その分、食費ははずめよ。

智貴「そろそろ寝るか。」

…来た! ふふふ、ネットでちゃんと下調べをして来たからな。飼い猫が飼い主とベッドを共にするという事はすでに承知している。この世はギブアンドテイクで成り立っているんだ。エサをもらう代わりに体を提供する。少し早いがとうとう私も大人の階段を登る瞬間がやって来た! だができれば痛くしないで欲しい…

智貴「ほら、寝床を作ってやったぞ。」

普通に別々に寝るのかよ。空気読めよ、お前友達少ないだろ? 女に恥をかかす男はモテないぞ? こうなったら私はテコでもベッドから動かないからな。

智貴「なんだよ、俺と一緒に寝たいのか?」

とか言いつつ下半身は元気出てんだろ? このムッツリスケベ。まだ若いんだから無理すんなよ。下僕は私の言葉を無視して電気を消してベッドに横になる。私はサービス精神を発揮して下僕の胸元へともぐり込んだ。下僕は私が寒くないようにと掛布団を掛ける。そうだ、いかなる時においても私を気遣う心を忘れない様にしろよ。

智貴「姉ちゃんにバレないようにしないとなぁ…」

下僕が半分眠った様な声で独り言を言った。姉ちゃん? 誰だそれは? この家には両親の他にも家族がいるのか。まあ私の世話をする下僕は多ければ多いほど良い。それに私はイケメンだけでなく美少女もイケる口だ。この男子中学生は素材こそ悪くはないが目つきが悪くてイケメンには程遠い。もし姉がお目目ぱっちりで良い匂いのする美少女だったら明日からはそっちの部屋で眠る事にしよう。ごめんな。

私はこれからのバラ色の飼い猫生活を思い浮かべながらゆっくりと眠りについた…

第2話「ぬこっち、ゆうちゃんに拾われる」に 続く 続かない