体の不自由な暗殺者達が俺の命を狙うのはどう考えてもお前らが悪い! その4 の続きです。初めての方は その1 からどうぞ。
車椅子の男は俺に近づくと俺を見下しながら、
車椅子の客「黒木君だね?」
と、俺の名前を呼んだ。会った事も無いのにどうして俺の名前を知ってるんだ? 俺が見上げると、男はチェック柄の膝掛けの下からセミオートの拳銃を取り出し、俺の頭に向けた。
引き金を引く瞬間、俺は後ろに転がりその場から逃れる。車椅子の男は何度も引き金を引いて弾丸を発射する。銃口が再び俺をとらえる直前、俺は手にしていたトレイを思いっきり投げつけた。トレイは空中に見事な放物線を描いて車椅子の暗殺者の喉元に直撃する。男は拳銃を落して喉元を抑えた。
友人は恐怖で泣きながらわめき声を上げている。店内にいた他の人々は叫び声を上げながら店のドアへと殺到している。対して俺は何故か奇妙に冷静だった。
俺はすかさず床に落ちている拳銃を拾い上げる。車椅子の男は潰れた喉元を抑えながら息苦しそうにのたうち回っている。
友人「どうしましょう! どうしましょう!」
友人が繰り返している。俺は拳銃を腰のベルトにつき差すと、シャツで拳銃を隠した。友人の手をつかみ出口へと向かう。男は苦しさのあまり車椅子から転げ落ちた。それと同時に膝掛けが落ちると男の下半身には足が無かった。口から血を吐いてもがき苦しみながらも、男は俺の方に手を伸ばそうとしている様に見えた。
恐怖に震えながら、俺は友人を連れて店の外に出る。遠くからサイレンの音が近づいて来ていた。辺りは夕暮れでオレジンジ色に染まっている。
友人「智貴くん、きっとあの人死んじゃったよね。」
俺「違う! あいつが俺を殺そうとしたんだ!」
俺は辺りを見回す。別に何か考えがあっての事じゃない。俺はもうすでに本能で行動していた。
俺「行こう。」
俺が言うと友人は何も聞かずについてくる。走っている途中で俺はさっきの店に傘を忘れて来た事に気づいた。冷たい雨が降り出して俺達の体を濡らしたからだ。因果応報ってやつかな。
友人「智貴くん、戻って自首しましょう! そうすれば警察も正当防衛だと解ってくれるわ!」
俺は彼女を無視した。警察なんかに行ったら自殺行為だと俺は思った。
家に向かって走る途中、この時間帯にも関わらず通りに人がまったくいない事に気づいた。もしかしたら嵐が来るのかも知れない。友人は俺に自首を勧めたが、それでも俺の後を付いて来ている。この子は少しムカつくくらいに俺に忠実なのだ。今起きている事態を俺よりももっと呑み込めていないはずなのに、俺の側を離れようとはしない。
家に帰ると俺達はそのまま姉の部屋まで飛び込む。ドアを勢いよく開けると、そこに姉はいなかった。
次は自分の部屋、トイレ、台所、両親の部屋を探す… しかし姉はどこにもいない。姉が消えてしまった。
姉は消えてしまった。
俺は携帯を取り出し、電話をかけてみる。が、無駄だった。姉のベッドの上に積まれた汚ない服の下から携帯のバイブレータの振動音が聞こえる。
友人「智貴くん! 一体何をしてるの? 一体何が起こっているの!?」
友人が俺を問い詰める。
俺「姉ちゃんが何か知っているらしい。」
俺は答える。
俺「でも今はその姉ちゃんが危険だ。」
友人の顔が暗くなった。
友人「聞いた私がバカだったわ。ねえ智貴くん。これからでも二人で警察に行かない?」
俺「頼むよ。」
俺は答える。
俺「君が姉ちゃんの事を嫌ってるのは知ってる。でも俺の姉ちゃんなんだ。何を言われようが俺は姉ちゃんを探し出さなくちゃいけない。俺を助けるか、一人で警察へ行くか好きな方を選んでくれて構わないが、お願いだから俺の邪魔だけはしないでくれ。俺は一人でもやるつもりだ。」
それを聞くと友人はすたすたと部屋から出て行ってしまった。まあこんな事に進んで関わろうとするやつはいないよな。
しかし俺が外に出ようと玄関にさしかかると、そこには手に鉈を持った彼女が俺を待っていた。
友人「これで… 私も武器を手に入れたわ。さあお姉さんを探しに行きましょう。」
と彼女は言った。