体の不自由な暗殺者達が俺の命を狙うのはどう考えてもお前らが悪い! その2 の続きです。初めての方は その1 からどうぞ。
俺は友人を風呂場に行かせ、洗面器に水をはらせて石鹸を泡立てさせた。その間、俺は台所からスポンジを取って来る。これは本当にひどい事だ、しかし誰かがやらねばならない。俺達は姉の部屋の前の廊下で落ち合い、軽く敬礼の真似をして互いの準備が整った事を確認し、薄暗い姉の部屋へと突入した。
部屋の中があまり良く見えなかったが、俺はなんとかベッドに横たわる姉の姿を見つけた。マッサージ器が狂ったように振動音を立てている。本当にマッサージ器として使っていたんだろうか? しかし今は一刻を争う。姉が驚いて飛び上がる前に、友人が洗面器の石鹸水の半分を姉の体に浴びせかけた。
友人「これでもくらいなさい!」
友人が叫ぶ。俺が部屋の電気をつけると、友人はスポンジを片手に姉に近づき、姉の顔や、腕や、足をこすり始めた。姉はなんとか逃れようと叫び声を上げながら暴れるが、友人にしっかりと体を抑えられて身動きが取れない。二人とも顔を真っ赤にしている、姉は突然の恐怖に泣きそうになりながら、友人はサディスティックな喜びの表情を顔に浮かべながら。俺は少し罪悪感を覚えた。俺はここまでひどい事をするつもりでは無かったのだ。
姉「ともくん! 止めさせて!」
姉が叫ぶ。
姉「水が冷たいし、それにすごく痛いの!」
友人「だまりなさい、このバカ女! あんたみたいな女は、智貴くんにふさわしくないのよ!」
どうやら興奮のあまり加減ができなくなっている様だ。俺はただちょっとしたいたずらのつもりで、姉をびっくりさせて少し恥ずかしい思いをさせようと思っただけなのに。こんな拷問みたいな展開になるとは思ってもいなかった。
俺は友人を姉から引き離した。友人はまだ水の入った洗面器を手に持ったままだったので、その水をぶちまけながら床に尻もちをついたが、多少体に水がかかったくらいではまったく気にする様子も無い。友人はぜえぜえと息を切らしながら、満面の笑顔で俺にスポンジを手渡そうとする。
友人「次はあなたの番よ! どちらがご主人様か教えてあげなさい!」
俺「もういい、出て行ってくれ。」
俺は冷めた口調で答える。
友人「どういう事?」
俺「俺が間違ってた。これはちょっとやりすぎだ。頼むからちょっと部屋から出ててくれないか? 俺もすぐに行くから。」
友人はまだスポンジを持った手を伸ばしたままだったが、その表情から笑顔はすでに消えていた。
友人「何を言ってるの? やりすぎ?」
俺は姉の方を振り返る。姉はびしょ濡れのままベッドの上で赤ん坊の様に丸くなり、静かに泣いていた。
俺「ああ。やりすぎだ。」
友人は伸ばした腕をおろすと、憎しみを込めた目で姉を見る。
友人「こんな気持ち悪い人に同情するなんて… 智貴くんはもう少し物事の解る人だと思っていたけれど…」
そう言うと友人は部屋から出て行った。
俺はなんとか姉を慰めようとしたが、思いつく言葉がどれもかっこ悪く思えたのでこう言った。
俺「ごめんな、姉ちゃん。」
姉はぐすんと鼻をすする。
姉「こんなのともくんらしくないよ…」
その通りだ。どうやら少しおかしくなっていたのは姉だけではなかったらしい。
姉「きっとやつらの陰謀ね…」
姉がつぶやく。
姉「やつらに命令されたんでしょう!?」
俺は再び何と言ったら良いのか解らなくなった。この後におよんでまだ例の暗殺者達の作り話を続けようとする姉に少しイラついたが、今はそれを問題にしている場合じゃない。俺は手に持ったスポンジを見た。一体俺はどうしてしまったのだろう? まるで自分が自分でなくなったような気分だった。
俺は姉の部屋から出てスポンジを元の場所に戻しに台所に向かう。台所では友人が待っていて、他のスポンジや洗面器を片付けていた。友人は怒りの表情を浮かべながら腕を組み俺に尋ねる。
友人「お姉さんの泣き言はもう終わったの?」
俺「まあね。」
俺は彼女にも少し腹を立てていたが、今回一番悪いのはどう考えても俺だ。
俺「ちくしょう。本当にどこかへ出かけたくなったな。」
友人「そうしましょう!」
友人はまるで仮面を取り換える様に一瞬でいつもの元気な彼女に戻り笑顔で答える。俺はそのあまりの変わり様に少し寒気を覚えた。
友人「早く行きましょう! 智貴くんの行きたい所ならどこでもいいわ!」