体の不自由な暗殺者達が俺の命を狙うのはどう考えてもお前らが悪い! その20 の続きです。初めての方は その1 からどうぞ。
その後数日俺の周辺は慌ただしかった。案内嬢が俺の病室に戻ってきてベッド脇の定位置に落ち着く。今となっては彼女の存在に嫌な予感しか感じない。いつか彼女が枕の下に隠したPDAの存在に気づいてしまのではないかと俺は気が気じゃなかった。あの夜、案内嬢が気を失った後で何が起きたのか聞かれたが、他の工作員達が来るまでの出来事で特に話す事はないと俺は嘘をついた。案内嬢は俺に疑いの眼差しを向ける。どうやら俺の言葉を信じてはいなさそうだ。
月曜になると部長がいつも通り俺の病室の花を交換しにやって来た。運良く案内嬢は眠っている。
部長「私の願いを込めて作った。」
俺「誰にも気づかれない様にこれを持っていってくれ。」
俺は部長にPDAを渡す。部長はしばらく左手に持ったPDAと右手に持った花のブーケを見比べていたが、
部長「わかった。早く良くなって。」
俺に花を渡すと他に何も言わず部屋から出ていった。
その週の水曜日、俺のリハビリが始まった。劇場で怪我をして以来、俺がベッドから出るのはこれが初めてだ。皮肉な事に、俺の最初のリハビリは車椅子の操作に慣れる事だった。これが思っていたよりずっと大変で、最初は誰かの助け無しではあまり長い距離を移動する事はできなかった。
ともかくこれで病院の構内なら俺は自由に行動する事ができる様になった。病院自体はそれほど大きくない、そして明らかに公共の病院ではなかった。病院内の表示は全て英語で書かれているが、TVは日本のチャンネルが映る。これらの事からこの病院はおそらく沖縄あたりの米軍基地内にあるのではないかと俺は推測した。
俺は部長に早くもう一度会って彼女の意見、何より俺に協力するという心強い言葉を聞きたかったが、PDAを渡してから一度も彼女に会えていない。俺は焦り始めていた。
案内嬢は俺が行く所に必ず付いて来る。俺は今でも彼女が俺を騙しているという事が信じられずにいた。彼女はこれまで通り俺にとても親切だし、何より俺と一緒にリハビリして、将来的に俺と一緒に現場に出るというアイデアをとても喜んでいる様に見えた。彼女は自分の射撃訓練の進行度合いを逐一俺に報告し、また俺のリハビリに成果があればそれも喜んでくれる。全部俺を騙すための演技なのだろうか?
射撃訓練は唯一案内嬢が俺の側を離れる瞬間だった。しかし同時に俺自身のリハビリの時間でもあるので、俺は未だに部長と話す事が出来ないでいる。一週間が経過し、俺はもう心中穏やかでいられなくなって来ていた。どうして部長は俺に会いに来てくれないのだろう? だが部長は月曜日になっても花を交換しにさえ現れなかった。
ある晩、夕飯前に案内嬢が俺の車椅子を押して病院内を散歩していた所に姉と出くわした。俺が姉と話している間に案内嬢はお手洗いに行くと言ってその場を離れる。これは絶好のチャンスだ。
俺は姉に部長の元へ連れて行って欲しいと頼もうとした。だが俺が口を開く前に、姉は自分が今プレイしている乙女ゲームの話や、イケてるスパイの彼氏を作る計画の話をペラペラと話し始める。俺は考えを変えた。こんなにウザい姉でも俺の姉ちゃんだ、危険な目には合わせたくはない。こうしてる間も誰かに見張られていないとは限らない。
姉を巻き込みたくはないが、部長にはなんとかしてもう一度会う必要がある。だが向こうから会いに来ないのでは俺には他にやり様がない。そこで部長が今どうしているかだけ姉に尋ねる事にした。
姉「…だから私は身長180cm以下の人は彼氏とは認められないのよ…」
俺「姉ちゃん。」
姉「いくら顔が良くても背が低かったらイケてないと思わない? だって…」
俺「姉ちゃん。部長の部屋がどこか知ってるか?」
姉「え? その人なら5階の私の隣の部屋にいるよ。部屋にたくさんの機械を持ち込んじゃんってね。私にはノートパソコン一つくれないのに。ノートパソコンだけじゃない…」
姉はまだ話を続けているが、そう言えば面白い事に俺はここ最近姉がどこにいるのか考えた事もなかった。部長と一緒で姉の方から俺の部屋に会いに来ていたからだ。
俺は次の行動を決めた。俺の方から部長に会いに行く、今夜、案内嬢が眠った後に。