体の不自由な暗殺者達が俺の命を狙うのはどう考えてもお前らが悪い! その19 の続きです。初めての方は その1 からどうぞ。
俺「おい…」
まだ体が少し痛むが、俺は手を伸ばして案内嬢の体をゆすって起こそうとする。だが彼女はうめき声を上げて寝返りを打つだけだった。それにしても毎晩よく椅子の上なんかで熟睡できるなこの人。寝心地悪いだろうに。
俺「おい… 起きろよ…」
案内嬢「……」
俺「おい…! 起きろってば!」
俺はとうとう我慢できなくなり、案内嬢の耳元で少々大きな声でささやく。
案内嬢「何? こんな時間に何の用?」
まだ眠たそうな声で答え、案内嬢は目をこすりながら体を起こす。
俺「天井に誰かが…」
そう言いかけた瞬間、天井のパネルが一枚床に落ち、開いた穴からロープが降りて来た。案内嬢が素早く椅子から立ち上がると、今度はロープをつたって人影が降りて来る。俺の幼馴染の女の子だった。
案内嬢はとっさに腰の拳銃に手を伸ばすが、侵入者の方が先手を取った。友人がダーツの様なものを案内嬢に向かって投げつけ、首筋にそれを受けた案内嬢はそのままドスンと大きな音を立てて床に昏倒する。まるで盗賊みたいな黒装束に身を包んだ俺の幼馴染は冷たい表情で俺に話しかける。
友人「智貴くん、あなたに話があるの。」
そう言いながら俺のベッド脇まで近づいて来る。
友人「智貴くん…。こんな事になってしまってごめんなさい。」
友人が手を伸ばして俺の顔を撫でる。俺はその手から逃れようと顔を背けた。そんな俺の意志を受け取ったのか、友人は傷ついた表情で伸ばした手を引っ込める。
俺「俺がこんな体になったのはお前のせいだって言うのか?」
友人「智貴くんが何を吹きこまれたのかは知らないけど… それがなんであれ全部デタラメよ。」
俺「それがたった今俺の仲間をダーツで昏倒させた奴の言う事か? そんな奴の言葉を信じろって方が無理だろ。」
友人「仕方なかったのよ。智貴くんと話す必要があったし、他に方法がなかったの。」
俺「十秒以内に立ち去らないと人を呼ぶぞ。」
幼馴染の友人が笑い出す。
俺「俺は本気だぞ。」
だが友人の笑いは大きくなるばかりだった。
俺「何がおかしいんだ!?」
友人「ごめんなさい。だってそんな事言うなんて、智貴くんがまだ私の事を信じてくれている証拠だもの。」
友人は笑いながら目に浮かべた涙を拭きとる。
友人「そうでなければ警告なんてせず真っ先に助けを呼ぶはずでしょう?」
そう言うと友人は両手を大きく広げて俺の体を抱きしめる。
友人「信じてくれて嬉しいわ。」
俺「用事があるならさっさと済ませて出て行ってくれ。」
俺がそう言うと、彼女はポケットからPDAの様な機械を取り出して俺の枕の下に入れる。
友人「その中に智貴くんの知りたい事の全てが入っているわ。」
その時、廊下から足音が聞こえてきた。おそらく他の工作員達が駆けつけて来たのだろう。友人は俺の頬にキスをすると、
友人「また会いましょう。私がもう二度と智貴くんに怪我なんてさせやしないと約束するわ!」
そう言って俺のベッドから離れ、工作員達が駆け込んで来る頃にはロープを伝って再び天井裏へと消えてしまっていた。工作員達は俺の無事を確認すると昏睡する案内嬢の体を治療のために連れて行く。病院内では侵入者の捜索が続いていたが、俺はなんとなく友人が捕まらない様な予感がしていた。
幼馴染から受け取ったPDAの中身を俺が確認したのはそれから数時間が経ってからの事だった。侵入者の捜索は夜明け近くまで続き、俺の安全が完全に確保されるまで一人きりの時間が持てなかったからだ。ちなみに案内嬢は別室でまだ治療中である。
PDAには “ザナドゥ・イニシアティブ” と呼ばれる計画に関する公式文書のデータが大量に保存されていた。詳細についてはさっぱり解らないが、要点をまとめると日米両政府が共同開発するマインドコントロール技術に関するものらしい。
またPDA内に保存されていた俺の友人からのメッセージによると、”社交クラブ” は俺の本当の敵ではなく、大衆のマインドコントロールを目的とした大きな陰謀を阻止するために戦う秘密結社との事だ。もっとも彼女がそれを知ったのは劇場での事件の後、”社交クラブ” に連れ去られた後の事らしいが。
PDA内の文書は彼女のメッセージの信憑性を裏付けている様にも見える。またその文書によると案内嬢も “ザナドゥ・イニシアティブ” に関与しており、俺はその計画の実験体でしかないらしい。友人はメッセージで、案内嬢や同じ組織で働く他の工作員達を信じてはならないと警告している。さもなくば俺や俺の姉は最終的に殺される運命にあるらしい。
……
俺はしばらく考え、幼馴染の友人の言葉を信じる事にした。物心がついた頃からの親友だ、こんな状況下で信じられる人間がいるとしたら彼女以外にはあり得ない。俺はPDAを再び枕の下に隠すと、次の行動についてじっくりと考える事にした。