体の不自由な暗殺者達が俺の命を狙うのはどう考えてもお前らが悪い! その18 の続きです。初めての方は その1 からどうぞ。
その日の夜遅く、俺は案内嬢と今後について話し合った。リハビリが上手くいけば、俺は銃火器の取り扱いを含む戦闘訓練を受ける事になっている。その厳しさを想像すると少々気が重くなるが、今の俺には必要な事だ。
俺「姉ちゃんは一体どうなる?」
俺がこの話題を出すのはこれが初めてだった。
案内嬢「別の工作員が証人保護プログラムでアメリカに移住する事を薦めているけど、彼女は行きたくないと言っているわ。お姉さんはあなたと一緒でなければ嫌みたいね。」
俺はため息をつく。いずれこの件について姉と話し合わなければならないだろう。たとえ別れがつらくとも、今の俺の側にいない方がお互いのためだ。
俺「あんたはどうするんだ?」
案内嬢「あなたのリハビリが始まるまではここにいるわ。トレーニングは別の工作員が担当する事になっているから、その頃にはワシントンに戻ってそのまま定年までデスクワークをする事になるわね。残念だけど仕方ないわ。」
それもまたつらい話だ。俺はてっきり彼女と一緒にトレーニングを受けて、現場でもパートナーとして共に行動する未来を想像していた。
案内嬢「良いニュースもあるわよ。あなたは一人ぼっちにはならないわ。いつもお花を持ってくるあの少し変わった無口な子…」
俺「部長の事か?」
案内嬢「その子がネット犯罪者として10ヶ国以上でお尋ね者になってるってあなた知っていた? 彼女は私達の組織と取引をして、自分の身柄の保証と引き換えにテロ対策班の一員として働く事になったわ。あなたが現場に出る時には技術的なサポートをしてくれるはずよ。」
俺「あんたとは一緒には働けないのか?」
案内嬢は立ち上がると窓の方へ歩いて行く。俺の位置からは包帯で覆われた彼女の横顔しか見る事はできなかった。
案内嬢「それは不可能よ。」
長い沈黙の後に彼女は言う。
案内嬢「私の片目はほぼ完全に失明しているもの。こんな状態で現場に出させてもらえる訳が無いわ。一緒に働くとしたらあなたも退屈なデスクワークをするハメになるわよ…」
俺「あんたはもう一度現場に出たいんだろう、違うか?」
再び長い沈黙が流れる。
案内嬢「もちろん出たいわよ。それが私の生きがいだったもの。」
俺「俺と一緒に働きたくないのか?」
彼女は笑う。
案内嬢「子供が調子にのるんじゃないの。」
そしてわずかに聞き取れる小さな声でつけ加える。
案内嬢「それができたらきっと楽しいでしょうね。」
俺「ならどうしてそんなにすぐ諦めるんだ? あんたの上司に現場の仕事を続けたいって言えばいいじゃないか。」
案内嬢「上司の決定に逆らってもクビになるだけよ。それに例えデスクワークでも “社交クラブ” を壊滅させる手助けはできるからね。」
俺は顔を背ける。彼女がこんなにも簡単に諦めてしまう事にイラ立ちを感じていた。だが俺には一つアイデアがあった。
俺「俺のリハビリは最低でも三ヶ月はかかるんだよな?」
案内嬢はようやく俺の方へ顔を向ける。
案内嬢「そうよ。それがどうしたの?」
俺「じゃあ俺と一緒にリハビリを受けてくれ。あんたは目のリハビリを受けて、それが終わったら俺と一緒にフィールドテストを受けるんだ。テストに受かりさえすれば、あんたを再び現場に戻す事に文句を言うやつなんていないはずだろ!?」
案内嬢「目のリハビリを受けろって… あなた正気なの? それともただのバカなのかしら?」
俺「頼むよ、どうしてそんなに簡単に諦めるんだ?」
案内嬢は唇を噛む。
案内嬢「わかったわ、私の負けよ。私は目のリハビリを受ける。でも奇跡を期待するのは止めてちょうだいね。」
俺は笑顔になる。
俺「オーケー、相棒。」
案内嬢「私を相棒と呼ぶのも止めてちょうだい。」
その後数時間、俺達はトランプをして遊んだ。実は俺はポーカーにはちょっと自信があったのだが、彼女は俺よりも上手くてこの数週間で俺の負け分は数十万ドルにも達していた。案内嬢はこの賭けが遊びではなく、俺がいずれこの負け分を支払わねばならない事をしつこく確認して来た。
午前2時を少し過ぎた頃、案内嬢がようやく眠りについた。麻酔を受けているにも関わらず俺はちっとも眠くはなかった。俺は横になりながら天井から吊るされた小さなTVを観る。こんな時間なのでほとんどのチャンネルが通販番組をやっていた。他にくだらないハーレムもののアニメもやっていたが、俺にはそんな気持ちの悪いものを観る習慣はない。
そうしてTVのチャンネルを変えていると、俺の真上辺りの天井から物音が聞こえてくる。まるで誰かが天井裏を移動しているかの様な音だった。