体の不自由な暗殺者達が俺の命を狙うのはどう考えてもお前らが悪い! その12

体の不自由な暗殺者達が俺の命を狙うのはどう考えてもお前らが悪い! その11 の続きです。初めての方は その1 からどうぞ。

 映画館までは特に何事も起こらず無事にたどり着く事ができた。遠くの方でサイレンの音が鳴り響いていたけれど。俺は友人がメイド服だなんて言うやたらと目立つ衣装を選ばないでくれれば良かったのにと再び思った。警察は間違いなく俺達を追っている事だろう。

映画館そのものは小さいが、ロビーは広く照明も明るかった。俺はこっそりと中へ入ると、車椅子の男や警察官が待ち構えていないか辺りを見回す。幸い普通の客しかいないようだ。友人と部長は俺の後をついてくる。俺達は売店を通り過ぎると、そのまま劇場入り口の廊下へと向かう。案内嬢はいつも大抵そこでもぎりと案内の仕事をしている。そして予想通り…彼女はそこに居た。

案内嬢の姿を見た瞬間、俺は恐怖を覚えた。もしもの時はどうやって攻撃したら良いだろう? 先手必勝でいくか、それとも慎重にいくか… だがそんな心配は案内嬢の声でかき消された。

案内嬢「いらっしゃいませ! 三名様ですね?」

案内嬢は作り笑顔でそう言う。だいたい、俺達はチケットを持っていない。しかし俺達が近づくと彼女は俺に半券を手渡した。

案内嬢「9時からの上映ですね? このまま11番シアターへとお進みください。」

俺は渡された半券を見て、後ろの二人を振り返る。幼馴染の友人は首を振って「NO」という意思表示をしているが、部長は相変わらず無表情のままだった。

俺は今となっては以前ほどかわいらしいとは思えなくなってしまった案内嬢の方へと向き直る。

俺「俺の姉ちゃんはどこだ?」

俺は手にした半券を握りつぶして床に投げ捨てると、こう尋ねた。

案内嬢「何の事でしょうか?」

俺「とぼけるな! あんたは工作員だ! あんたは暗殺者の仲間だろう!」

俺達の後ろに並んでいた客が自分の番を待ちかねて咳払いをし始めるが、今は他人を気遣っている余裕はない。

案内嬢「お客様、どうか落ち着いて11番シアターへどうぞ。」

俺「落ち着いてなんていられるか! お前が姉ちゃんをどこかへ隠したんだろう! じゃなければお前の仲間が隠したんだ! 俺の姉ちゃんを! そりゃそんなに好きな姉ちゃんじゃないし、色々といじわるな事もしたし、そこにいるのが当たり前の事だと思っていたけれど…」

案内嬢は俺の腕をつかんで引き寄せ、俺の耳に顔を近づけて低い声でこう言う。

案内嬢「11番シアターへお進みください。」

とっさに俺は腰のベルトの拳銃に手を伸ばす。その瞬間、案内嬢に拳銃を持った腕をキメられ俺は身動きが取れなくなる。彼女の力は俺よりだいぶ強いみたいだった。案内嬢はそのまま俺を連れて困惑した他の客に愛想笑いを振りまきながら廊下を進んでいく。幼馴染の友人が急いで後を追おうとすると、案内嬢は後ろを振り返らず低い声でこういった。

案内嬢「下手な事すると、あなた死ぬわよ。」

友人「智貴くんを今すぐ離しなさい!」

友人が悲鳴のような声をあげる。俺はただそのまま案内嬢に連れられて廊下を進むしかなかった。両手を完全にキメられてしまっている。

俺「あんた一体何者なんだ?」

俺が尋ねると、

案内嬢「私はあなた達の担当なのよ。」

案内嬢は答える。

俺「どういう意味だ?」

案内嬢「言葉そのままの意味よ。」

11番シアターに着くと、案内嬢は足を使って扉を開け、劇場の中へと俺を乱暴に押し込んだ。俺はそのまま倒れこんで自由になった両手を床につく。俺がすぐさま立ち上がると、友人と部長が駆け寄って来る。

案内嬢が劇場のライトを点けると赤いベルベットに覆われた座席と通路が姿を表す。たった一人を除いて劇場の中に客は誰一人いなかった。最前列の席に俺の姉が座っていた。

俺「姉ちゃん!」

俺は姉の元へと駆け寄る。

姉「ともくん。」

姉が答える… まだ少し変な匂いをさせながら。その手にはマシンガンの様なものを持っていた。

俺「大丈夫か? 怪我とかしてないだろうな?」

俺が尋ねると姉は首を振る。

姉「担当官が私を守ってくれてたの。ともくんが家を出た後にやって来て、ともくんも後で連れて来るからって… でもともくんが彼女を出し抜いちゃったみたいね。」

その担当官とやらがもっと注意深く行動していれば… まあいい。俺がくぐり抜けて来たクソみたいな体験とかは後でゆっくり話せばいい。今は再び姉の顔を見れただけで良しとしよう。

俺「姉ちゃん。俺は… 本当に心配したんだぜ。」

姉は顔を真っ赤にして下を向いてしまう。ストレートな愛情を向けられるのにあまり慣れていないんだろう。

姉「ねえ、今これを使う練習をしていたの…」

そう言うとマシンガンを持ち上げて微笑む。

姉「だ、だからね。ともくんは車椅子の暗殺者のフリをして。私が銃口を向けるから、ともくんは命乞いをして。」

俺「何言ってんの?」

姉「いいから、お願い。」

俺「ええと… お願いだー、殺さないでくれー。」

姉「い…命乞いなら地獄の鬼にするんだな。」

……

姉は案内嬢の方を見ると、

姉「台詞はこれであってる?」

と尋ねる。

俺は何年かぶりに姉の体を抱きしめた。

体の不自由な暗殺者達が俺の命を狙うのはどう考えてもお前らが悪い! その13 に続く

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