体の不自由な暗殺者達が俺の命を狙うのはどう考えてもお前らが悪い! その7 の続きです。初めての方は その1 からどうぞ。
父のパソコンからUSBメモリを引き抜くと、俺はそれをポケットに入れた。外はもうすっかり暗くなり、街灯の明かりに照らされたオフィスの窓には強い雨が打ちつけている。友人は不安そうな表情をしていた。
友人「これからどこへ行くの?」
俺「コンピュータ研の部長がこの近くのアパートに住んでいるんだけど、彼女ならこのデータの解析を手伝ってくれると思う。」
そう言うと友人は少し頭をかしげる。
友人「智貴くんってコンピュータ研の部長と知り合いだったの? それは初耳だわ。」
俺がうなづくと、
友人「どうして!? 彼女は変人でそれに…」
俺はその言葉をさえぎる。今は俺の女友達について議論をしている暇などない。俺は立ち上がると廊下に出るためにドアへと向かう。しかしドアノブをつかもうとした瞬間、手を伸ばしたまま俺はその場に固まった。
俺「今の音聞こえたか?」
俺がささやくと友人は首を振る。
「キーッ… キーッ…」
金属のきしむ音が聞こえた。まるで…車椅子の様な。
俺は腰のベルトからオートマチックの拳銃を取り出す。そしてもう片方の腕で友人の体を俺の隣の壁際へと押しやると、指を一本立てて口元へ持って行った。彼女は静かにうなづく。そして今度は指を二本立てる。廊下からは二種類の金属音が聞こえてきていた。俺はヘッドホンの使いすぎで何年も前からあまり耳がよくなかったはずだが、今日はだいぶ調子が良い様だ。
俺は拳銃をぐっと握りしめる。これまた奇妙な事に拳銃を持つのはこれが初めてのはずなのに、不思議と違和感や恐怖感は無かった。なんと言ったら良いか解らないが… 体に馴染む。
「キーッ… キーッ…」
俺は後ろを振り返って友人が鉈を手にしている事を確認すると、ドアを指差し声を立てずに口を動かした。
俺 (一… 二… 三!)
勢いよくドアを開くと廊下に向かって狙いもつけずに銃を発射する。銃声は驚くほど静かで銃弾の装填も異常なくらいスムーズだった。薄暗い廊下のつきあたりで人影が倒れる。目の前に立ちこめる硝煙の煙を手で払うと、俺は念のためにもう何発か男の体に銃弾を撃ち込んだ。俺の狙いは正確で、車椅子の男の体からは血が吹き出しカーペットに染みを作る。これなら確実に死んだだろう。
友人は壁に頭を押し付けながら俺に尋ねる。
友人「死んじゃったの?」
俺はあたりを見回す。
俺「まだ一人しとめただけだ。早くここから出よう。」
彼女の手をつかむと俺は非常階段へと走った。階段なら足の不自由なやつらが隠れている事もないはずだ。
しかし非常階段のドアを開けると、車椅子の暗殺者の二人目が踊り場で俺達を待っていた。男は車椅子ごと勢い良く俺に体当たりし、車椅子の前面に取り付けられた鋤の様な形をした装置で俺の足を払って転ばせる。俺が事態を把握するよりも先に、男の銃口が俺のこめかみに向けられた。
友人「嫌あぁぁっ!!」
そう叫びながら背後から男に飛びかかると、友人は手にした鉈を男の首筋へと叩き込んだ。男の体は発作を起こした様にけいれんし、狂った様に目ぶたをぱちぱちとさせると、手から拳銃がこぼれ落ちた。
友人は再び奇声を上げて、男の車椅子のハンドルを握って階段へと押し込み、そのまま男の体ごと階下へと投げ捨てた。俺の位置からは男の落ちていく姿は見えなかったが、車椅子が転げ落ちる金属音と共に全身の骨が砕けるにぶい音が聞こえてきた。男の首には鉈がざっくりと刺さったままだ。
俺のところへ戻ると彼女は手を差し出し、床に倒れていた俺が立ち上がるのを助ける。運動のせいか興奮のせいか解らないが彼女は息を切らしていた。気がつくと息を切らしているのは彼女だけではなかった。時間にしてみれば一瞬だが目の回る様な出来事だった。
友人は男の落とした拳銃を拾い上げるとそれを高くかかげて、
友人「武器がパワーアップしたわ!」
と叫んだ。
俺「気をつけろよ。おもちゃじゃないんだぞ。」
つい先ほど人を殺した割には、彼女の態度は落ち着いている様に見えた。いや、人の事は言えないだろう。俺はほんの少し前に自分が殺した男の事を思い出す。どうしてこんなに簡単に人を殺せるんだろうか?
友人「今度はエレベーターを使いましょうか?」
と友人が尋ねた。