私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! ミステリー小説アンソロジー (星海社FICTIONS)
谷川ニコ先生のあとがき
今回は前置きなしでいきなり感想から入ります。まずは谷川先生のあとがきから。
冒頭から愚痴で始まる実に谷川先生らしい導入。
明言は避けてますけど、まあ誰が読んでも「海浜秀学院のシロイハル」の突然の連載終了の顛末ですよね。
当時の私は驚きのあまり シロイハルの突然の連載終了ついての記事 を書きましたが、こうして時が経った後で話が聞けるというのは嬉しいファンサービスです。
谷川先生は少し露悪的なところがあるので、ここでの文章を全てうのみにはできないと思いますが、私なりの勝手な推測をするなら谷川先生はワタモテの初期みたいなインパクトのある作風で話題を集めようとしていて、編集者の人は12巻あたりの作風を求めていてそこにズレがあったのかなと思いました。
>「仕事は受けるものではなく自分から取りにいくものなんだなと改めて思いました。」
私は業界の事はよく知りませんが、これ意外と谷川先生の本心かも知れないと思うと少し面白いですね。今さら言う?
谷川ニコ – 朝の目撃者 / 昼休みの探偵
ここから本編の感想です。
前回の谷川先生の作品に対する感想 で私はこの様に言っていました
読者がワタモテファンであれば、キャラの名前が書いてあれば外見や性格はぱっと頭に浮かびます。舞台となる場所の説明も最低限あれば十分です。そういう部分をばっさりと省いてあるせいか、原作の漫画を読んでる時と同じテンポでするっと読むことができました。
で、今回は前回よりさらに大胆に情景や人物の内心の描写をばっさりとカットして、いわゆる「会話劇」の様な形でお話が進んで行きます。
「ずいぶん思い切ったことするなー」と思いながら前半は楽しく読めましたが、後半に入りもこっちが「二人でネモのパンツがなんなのか解き明かそう」と言った時点で正直に言って「しょうもない」と思いました。
ミステリとくれば読者がまず期待するのは殺人事件でしょう、せっかくIFの物語が読めるチャンスなんだし。とはいえゲストの作家さん達には他人の作った漫画のキャラクターを自分の作品の中で殺してしまう事にはためらいがあると思います。
なればこそ原作者である谷川先生には殺人事件に挑戦してもらいたかったんですが、プロの作家さん達に囲まれて本気のミステリを書く事に照れがあったんですかね?
あと谷川先生が意図して会話劇っぽくしたのかは分かりませんが、会話劇として読んだ場合もう少し会話にウィットが感じられると面白くなっただろうなと思いました。
ミステリで会話劇といえば古畑任三郎にいくつか良いエピソードがありますが、ワタモテキャラでああいう雰囲気の作品が読めたら最高だったのになと思います。
この様にファンの期待は無責任に膨らませる事ができますが、あとがきで先生が「無理だった」と書かれているのでそれは無理な相談なのでしょうね。
他の先生方の作品について
前回の小説アンソロジーで谷川先生以外の方の作品の感想を書くのはとても苦労しました。
まったく感想を書かずにスルーするというのはなんか失礼な気がしましたし、書くにしても谷川先生と違い、その方の作品に詳しい訳でもないのにあまり辛口の感想を書くのもなんか違う気がして、結局中途半端な形の感想を書いて割と後悔しています。
あんな感想でも読んで小説アンソロに興味がでて買ったという人が何人かいたのがせめてもの救いですが、いずれにしろ今回のアンソロジーが面白くなかったら感想は書くのはやめようと密かに思っていました。
そんな私がお世辞抜きで言います。今回のアンソロジーは面白いです。
ミステリという一定の方向性が与えられたのが良かったんですかね? みなさんさすがプロの作家という内容です。
面白いと思ったものを素直に面白いと言う、前回と比べるとなんて簡単で気楽なんだろうと思いますが、それだけでは記事にはならないので個別の作品の感想に入りたいと思います。
円居挽 – モテないし一人になる
今回一番面白いと思ったのはこちらの作品です。
ワタモテだけでなく、谷川先生の他の作品からキャラを登場させてクロスオーバーさせる。これだけなら他のファンの方の二次創作でもよくある事ですし、前半部分を読んでる時点では正直「この内容でクロスオーバーさせる必要があったのか?」という疑問を感じていました。
しかし海浜秀学院のシロイハルの叶くんが登場した辺りからどんどん面白くなっていきます。それまで登場していたキャラは比較的常識人ばかりで物足りなさを感じていた所に、叶くんが投入される事で一気に「谷川ニコワールド」が形成されます。
下ネタ中心なんで下ネタが嫌いな人は楽しめないと思いますが、シロイハルが好きだった人は読んで損はないと思いますね。
そして叙述トリック。まあシンプルなものですが、ちょうど良いタイミングでちょうど良いツボを突かれて「そうそう、こういうのを期待していたんだよ」と嬉しくなりましたね。素晴らしいです。
岡崎琢磨 – 踵の下の空白
次に面白いと思ったのはこちらです。
ワタモテキャラとしては最古参でありながら、原幕の生徒ではないため謎の部分も多いゆうちゃんを主役に、彼氏や高校の友達との関係を描きつつ、周囲から孤立するとある女の子をゆうちゃんが救う物語。
前回のアンソロで言うと青崎有吾さんの岡田さんのお話みたいな感じですね。ワタモテ本編で描かれてない部分に想像の翼を拡げながらオリジナルの話を展開して上手くまとめてあると思います。あともこっちのピンポイントでの使い方が見事です。
ゆうちゃん主役という事もあり、全体的に綺麗にまとまりすぎてる所が物足りないという人もいるかも知れません。私は好きです。
坂上秋成 – モテないし合コンに行く
次に面白いと思ったのはこちらです。
こちらはもこっちが主役のお話で、谷川先生の作品が会話中心だったのでなおさらそう思うのかも知れませんが、もこっちの持ち味の一つであるモノローグが小気味よいテンポで書かれていて「谷川先生を真似るエミュ力が高いな」と感じました。
登場時の合コン相手の男性陣が少しチャラすぎて、「ワタモテはそういうのじゃないんだけどなー」と思ったりもしましたが、後々割と真面目な部分が見えたりするのも良かったです。
で、肝心のオチの部分ですが、
少し言いにくいですが言いましょう。予想通りすぎる上に面白くはなかったですね。
そこを除けば全体的には面白かったです。
市川憂人 – 絵文字 vs. 絵文字 Mk-II
面白い順番に感想を書いていって最後に残った作品を面白かったと言っても説得力がないので、この辺から感想を書くのがつらくなってきます。
つまらないというほどではないけど、前半でそれっぽいミステリの導入をして期待値を上げながら、後半が進むにつれて期待が裏切られていく感じが残念でした。
あとうっちーのモノローグでちょいちょいファンなら周知のエピソードが語られてテンポが悪く感じます。前回のアンソロジーでもこういう傾向があったので、この手のアンソロジーに参加する作家さんはこういうのが書きやすいんですかね?
良かった点をあげると雌猫組のLINE会話はありえそうな感じで面白かったです。
これだけだと批判してる部分に対して褒めてる部分が少なすぎる気もしますが、作家さん本人の地力があるのでつまらないという感じではなかったです。
結び
以上簡単ながらワタモテ ミステリー小説アンソロジーを読んだ感想を終わります。
上でも書いた通り前回に比べてだいぶ楽に書けました。
ところで前回の感想で私はアンソロジーが1冊1500円は高いと思ったと書きました。冷静に考えるとこれが一番失礼な感想だなと思いますが、今回のアンソロジーは内容も良かったしボリュームも前回と比べて増えた事で、まあ高いは言い過ぎかなくらいになりました。
決して安いとは言えない理由は普段から言ってる通り、同じ作品を読んだ感想を他の人たちと共有するのがワタモテという作品の醍醐味だと私は思っているからです。
前回もそうでしたが、ツイッターでは比較的感想がつぶやかれてますけど掲示板だと買ってる人がほとんどいないからまあ盛り上がらない。
普段ワタモテの感想を書いているブログさんもほとんどが前回のアンソロジーの感想を書かずにスルーしてたし、コミュニティによってこれほど反応に温度差があるのも少し珍しい気がします。
まあこれは作品が悪いわけでも、ファンが悪い訳でもないと思いますが、もし仮に今後またなんらかのアンソロジーがあるとしたらワタモテファン全体が盛り上がれると良いなと思います。