私モテの作品世界、もこっちの主観説

便宜上「説」と言ってますが確かな論拠のある固い話ではありませんのであまり期待しないでください。以前ツイッターの @kensosha さんがご自身のブログで「わたモテにおける物語構造について(連続ツイート転載)」と言うとても興味深い記事を書かれていました。国内外のファンを見ていると、@kensosha さんと同じく修学旅行前後で私モテが大きく変わったと考えてる方が多く、私もそれに異論はありませんが、少しだけ別のアプローチから私モテ世界の変化を説明してみたいと思います。

さて「私モテの作品世界、もこっちの主観説」ですが、私モテは主人公である黒木智子の日常生活が描かれる漫画ですから、作品内の描写が智子の一人称視点中心となるのはごく当たり前の事の様に思えます。ですが私はそこからあと一歩、いやあと半歩踏み込んで「作画、特に背景に注目することで智子の見ている世界が見えてくるのではないか」という話をする所から始めたいと思います。

作画の先生は以前インタビューでこの様に答えられていました。

――影響を受けた作品や好きな作品を教えてください。

作画 世界観が好きなのは「スヌーピー」のアニメです。大人の顔を出さず、大人の声をなんの言葉にもしていないんです。「ちょく!」や「私モテ」もそうですけど、自分たち以外の言葉や世界のものが目に入らないような感じが好きです。「すんドめ」も同じ理由で好きです。

喪女が国境を越えた 4chan民が愛する漫画「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」 (3/3)

少々強引ですが私はこの作画の先生の言葉から「私モテの背景に描かれる人物や物体には必ず智子の興味が向いている」という仮定を立て、この仮定を基に私モテを読むようにしています。

 

1年生の時の根元、岡田、清田

文化祭などのごく一部の例外を除いて1年生の時はクラスメートとほとんど会話がなかった智子ですが、背景にはある特定のグループがよく登場していました。根元さん、岡田さん、清田くん、あと2年生になってからはほとんど登場してませんがアニメでは台詞もあった大松さんと鈴木くんのグループです。

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ではなぜこのグループが背景によく登場していたのでしょうか? 「作者が他のキャラを考えていなかったから」というのは例えそれが事実であっても不十分な解答です。作者が考えていなくても、1年生の時のクラスにも2年生のクラスと同じく雌猫の間のような女の子だけの仲良しグループはあったはずですし、体育祭で智子と二人三脚をしたようなイケメン男子もいたはずです。その中でなぜこのグループだけが智子の興味をひいて背景によく登場していたのでしょうか?

私はこれを「智子の理想とする学校生活を送っているグループだったから」と考えています。智子はよく自分が「異性からモテモテ」あるいは「同性からチヤホヤ」される場面を妄想しますが、智子が無自覚に見てしまう「リア充」はそのどちらでもないと考えると少しだけ興味深いと思います。

 

高校1年から2年になった智子の変化

智子が高校1年から2年に進級した時は、修学旅行の前後と同じくらいかそれ以上の変化が智子自身に起きました。家族やゆうちゃんなどのごくわずかな親しい人間を除いて、自己防衛的あるいは利己的な理由がなければほとんど他者に興味を示さなかった智子が、積極的に他者を観察したり共感を示すようになったのです。

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こちらは喪37で描かれた1年生の時の卒業式の回のコマですが、これ以降、2年に進級してからも同様に智子が他者に興味を示す場面が増えました。喪44に登場したサボリーマンも同じ理由で象徴的なキャラですね。これに関連して、ほんのわずかですが背景に描かれるキャラとその描き込みが増えた様な気がします。

 

周囲の智子に対する態度の変化

高校1年から2年になって変化したのは智子本人だけではありません。

作画の先生は以前インタビューでこの様に答えられていました。

作画 智子は、本当に誰の意識からも外れているんです。だから、クラスメイトから「あのコ、いつもひとりだよね」と気にしてもらうことすらないし、一方でばかにされることもない。

『わたモテ』作者・谷川ニコが語る”非コミュの生きザマ” (3/4)

しかし高校2年に進級すると、智子が周囲に対して関心を示すようになったのと同じく、積極的に智子と関わろうとするキャラが出てきました。根元さんに荻野先生、小宮山さんは少しイレギュラーですが、そのきっかけとなるエピソードがやはり高校1年の終わりで語られています。喪34「モテないし目立つ」です。

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“空気さん” から “黒木さん” に変われるチャンス」と智子自身が言っちゃってます。このエピソードのラストはいつも通りの失敗の様に見せかけていますが、これ以降、2年に進級してからもクラスメートから「黒木さん」として認識してもらえるようになりました。

 

私モテ世界におけるパラダイムシフト、あるいは智子の主観世界の終わり

これまでは「智子の世界」の変化について説明してきました。ここからは「修学旅行の前後で私モテの何が変わったのか」という話をしたいと思います。

国内外のファンの意見を色々と見ていると修学旅行を境に大きく変わったのは、それが良いか悪いかは別として、「もこっちに普通に話すクラスメートが出来てもはやぼっちではなくなった」という意見におおむね集約される様に思えます。私もそれについては異論はありません。

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こちらは喪90の1シーンですが、「最近までぼっちだったことバラされた」という事は、智子自身が今の自分がもうぼっちではないという認識を持っている事を示唆しています。

ですが修学旅行を境に変わったのは智子がぼっちでなくなっただけしょうか? 私個人の意見ではそれと同じくらいの別の変化が起きました。つい先日公開された喪94はその変化を象徴しています。喪94には智子も登場しますが全編を通して智貴の視点で描かれています。そうです、修学旅行を境に智子がぼっちでなくなると同時に、私モテは智子の主観世界が描かれる作品ではなくなってしまったのです、少なくとも私にとっては。

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念のために言うとこの場合の「智子の主観世界」というのは智子がその目で見ている世界に限定されません。智子と電話するゆうちゃんや、ネットを通じて智子とやりとりをする小宮山さんなんかはこの世界に含まれます。その上で智子の意識が向いていない、別のキャラクター視点のシーンが描かれる事もごくわずかですが今までにもありました。ですが修学旅行が始まって以降、智子以外のキャラクターの視点で描かれるシーンがまるで開き直ったかの様に増えたのです。

私モテの世界が智子の主観世界でなくなるという事は、智子がその世界の絶対的な観測者でなくなり、例え主人公であっても他のキャラクターと同じく相対的な存在へと変化する事を意味します。「だからどうした?」と聞かれても申し訳ありませんがこの話に特にオチはありません。智子の主観から離れた私モテの世界が今後どうなるかは全てこれからの話です。

またこの「変化」に対して批判的な意見を言いたかった訳でもありません。修学旅行を境に大きく変化したこの作品に対する私の考えを一度整理してまとめておきたかったというのが本当の所です。また普段主に海外の反応の翻訳を読みにこのサイトに訪れてくれているみなさんに、少しだけ私の事を知っていただきたかったというのもあるかもしれません。

いずれにせよここまでお読みいただき本当にどうもありがとうございます。「もこっちを見守る会」はこれからも変わらずファン活動を続けていきますのでどうぞよろしくお願いします。

4 thoughts on “私モテの作品世界、もこっちの主観説

  1.  管理人様の考察、大変興味深く拝見させて頂きました。私はここの掲示板でずっと
    ROM専でしたが、管理人様がご自分の考えを表にはめったに出さない方だと(勝手に)思っていたので、今回の考察を見て私も何か書き込んでみたいと思った次第です。
     
     私は、この私モテの1話を初めて読んだ時、もこっちこと黒木智子が「きっと」リア充になれる、「きっと」モテる等、漠然とした思いを持ってスタートした高校生活で、あっという間に何もないまま過ぎていくというお話しだと思っていました。現実が「そう上手くはいかないよ」と語りかけてきて、それでももこっちはめげずに(努力の方向性を間違えながらも)頑張って、それがギャグとして成立するストーリーになると考えていました。
     
     ですが、この作品を読んでいく内に分かったのは、もこっちも少しずつながら成長し、そして周りに影響を及ぼしていっているという事です(今回更新された「喪94:モテないし弟はサッカーやってる」がまさにそうでした)。きっと修学旅行等の大きなイベントを書くにあたり、谷川先生も少なからず迷われたと思います。あそこでもこっちは誰の関心も得ず、そのまま変わらない学校内の関係を保つというストーリーもあり得たと個人的に思うからです。谷川先生は伏線の張り方が上手い方だと思うのですが、更にキャラクター一人一人の少しづつの成長を交えて、この世界観を作られていると私は感じました。
     長文でお目汚し失礼しました。

    • どうもありがとうございます。

      4chanの反応の翻訳をする時は可能な限り多種多様な意見を選ぶようにしていますが、確かにこのサイトの掲示板に感想を書く時もあまり自分の「色」を出さない様にはしていました。それが最近少しづつ変わって来たのはツイッターを始めた影響かも知れません。

      伏線と言えば修学旅行が始まった段階で谷川ニコ先生が智子のぼっち脱出まで考えていたかどうかは、それだけで1つの記事が書けそうですね。いや、今の所書くつもりはありませんけどとても興味深い話題になると思います。

      • 返信ありがとうございます!返すのが遅くなってしまい、申し訳ないです。

        修学旅行が始まった段階で、谷川ニコ先生が智子のぼっち脱出まで考えていたかどうかですか、、、是非管理人様に1つの記事として書いてほしいです!(他力本願ですみません、、、)

        (誰も求めていませんが)個人的な考えでは、即興で今後のストーリーの方向性を谷川ニコ先生が決められ、新キャラ達は担当の方と相談して段々と肉付けされていったのかなーって思っています。

        これからもこのサイトを利用させて頂き、隙あらばコメントさせて頂こうと思います。いつも先生の漫画更新後に楽しませてもらっています。これからもどうかこのサイトを続けていって欲しいです。

        また長文失礼しました。

        • 昨日別の記事を作っていて気付いたのですが、そういえば去年の今頃谷川ニコ先生がご自身のツイッターで「3回くらいで終わると思ってた修学旅行でしたが、何故か長くなってしまいました。」とおっしゃっていました。

          となると修学旅行を境にワタモテが大きく変わったのは予定外であった可能性が高そうです。

          なおこのサイトは長文コメントも大歓迎ですよ