体の不自由な暗殺者達が俺の命を狙うのはどう考えてもお前らが悪い! その9

体の不自由な暗殺者達が俺の命を狙うのはどう考えてもお前らが悪い! その8 の続きです。初めての方は その1 からどうぞ。

俺「いや、階段を使った方が安全だ。」

友人は不満気な顔をしながらも文句を言わずに俺の後をついてくる。蛍光灯の明かりに照らされた俺達の服には今さっき殺した男達の返り血がべったりと付着していた。これじゃあまるで食肉処理場からそのまま飛び出して来たみたいだ。これだけでまるでホラー映画の様だが、7階の階段の踊り場には友人が先ほど突き落とした男の死体が車椅子の残骸と共に転がっていた。血の匂いが鼻をついて吐き気を催す。だが俺の友人は俺を守るためなら人殺しさえやってのけると言う事が確認できた。

そのまま何事もなくビルから出ると、今の自分達の恰好のままでは人目を引きすぎる事に気づいた。血まみれの服を着た十代のカップルなんて怪しいにも程がある。もし警察なんかに呼び止められでもしたら… 気まずいなんてものじゃ済まない。

遠くでサイレンの音が響いていた。先ほどの銃声を誰かが聞いて通報したのだろうか?

通りを少し歩いた所に小さなデザイナーブランドの店があったので、俺達はそこで着替えを調達する事にした。今日これまでしてきた事を考えれば、服を盗むぐらいは些細な事だ。だが店の前に着いてみると、残念ながら店はまだ営業中だった。他の客の姿は見当たらないが従業員が一人いるのを窓の外から確認し、俺はため息をつく。

俺「仕方がない。この格好のままで部長の家まで行くしかないな…」

そう言いながら隣を見ると、そこにもう友人はいなかった。彼女は手に銃を構えながら今まさに店内へと侵入しようとしていた。俺はとっさに彼女の後を追う。結果として俺は彼女と同時に店内へと押し入る事になってしまった。

友人「私達は強盗よ!」

拳銃を振り回しながら店員に叫ぶ。

俺「なんてこった。」

俺は吐き捨てる様に言う。

店員「殺さないでお願い! 子供達が待ってるの!」

店員は手を上にあげながら懇願する。

友人「服が欲しいだけよ。」

と友人は店員に告げた。おそらく半分は俺に対する弁解の意味もあったんだろう。きっと人を殺して日常と法秩序から逸脱してしまった興奮から通常の思考ができなくなっているに違いない。彼女は店内を物色しはじめる。俺はしばらく手で眉間を抑えて考え込んでいたが、ここまで来たら覚悟を決めるしかないという結論に達した。

俺「本当にすみません。」

店員のそばを通りすぎる時に頭を下げ手を合わせて謝罪の言葉をかける。店員は目を見開き口をぽかんと開けて「信じられない」という表情をした。店員の手はまだ上にあげたままだ。

友人がジーンズをひとつ俺に投げてよこした。両手がふさがっていたのでジーンズは俺の肩に着地する。

友人「それ智貴くんにぴったりだと思わない?」

俺「あまり目立たない格好の方が良いと思わないか? それに…」

俺がまだしゃべっている途中に今度はシャツが頭の上に飛んできた。俺は顔をしかめながらジーンズとシャツを手に取ってラベルを確認する… 俺のサイズぴったりだ。どうして俺の服のサイズを知っているんだろう?

友人「智貴くん、こんなのはどうかな?」

彼女はメイド服を自分の体に合わせながら俺に尋ねる。

俺は彼女に言いたい事が山ほどあった。だいたい、人目を避けなければいけない時に場違いなコスプレ衣装を着るなんて聞いた事がない。だが今は議論している場合じゃない。サイレンの音がだんだんと近づいて来ていたからだ。

俺「似合うよ。何でも好きなの選びなよ。」

彼女は嬉しそうに飛び上がってその場でくるりと回った。

俺達は盗んだ服を持って店を出る。俺は店を出る時にまた店員に向かって頭を下げた。

俺「本当にごめんなさい!」

と俺が言うと、

友人「そうね、ごめんなさい!」

と友人が少しも悪びれる様子もなく付け加えた。

心臓の鼓動を感じながら俺達は近くの路地裏へと駆け込む。俺は着ていた血まみれのシャツを近くのごみ箱に投げ捨てる。俺がベルトを外そうとしていると、友人が顔を真っ赤にしている事に気づいた。

友人「智貴くん…」

俺は恥じらいというものを思い出して、少なくとも下半身を見られないようにごみ箱の裏へと隠れる。友人は後ろ向きになって着替えていたので後ろ姿しか見る事ができなかったが、俺は自分の性的好奇心を抑える事ができなかった。彼女がいつも着ているスパッツを脱ぐと、そこには小さくふくらんだ真っ白なお尻があった。俺は横目に盗み見ながらごくりとツバを飲み込む。なんと彼女は下着を一切身につけていなかった… これはつまり彼女がこれから着るメイド服の下は全裸という事になる…

俺は再び妄想の世界に入り込まないように頭を振る。彼女はお尻を大きく揺らしながらなんとかメイド服を着ようとしていた。

俺「急ごうぜ。」

俺は通りの方を不安そうに眺めながら声をかける。サイレンがどんどん近くなってきている。来た道とは別の道を通らなければならないだろう。

友人「私の着替えを覗いたりしなかったよね?」

着替えを終えると、友人は顔を赤くしながら俺に尋ねる。俺は親指と人差し指で小さな輪を作って「少しだけ」というジェスチャーをすると、少し笑いながらこう答えた。

俺「悪いな、つい我慢できなくて。」

彼女は耳まで真っ赤にしながら力のこもらぬ腕で俺の肩を叩くと、

友人「まあ… 少しだけなら、いいか…」

と少し嬉しそうにはにかむ。だが今そんな事している時間はない。

俺「おそらく警察も俺達の事を追っているだろうから、別の道を通って行こう。」

と俺が言うと、

友人「了解!」

彼女は気持ちをすぐさま切り替えて敬礼をするフリをした後、

友人「戦闘メイドのさくらはどこまでもご主人様について行きます!」

と、銃を体の横に構えてキメ顔でそういった。

俺「お前の名前はさくらじゃないだろ。」

俺がそう言うと、彼女は顔をふくらませて再び力のこもらぬ腕で俺の肩を叩いた。

体の不自由な暗殺者達が俺の命を狙うのはどう考えてもお前らが悪い! その10 に続く

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